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右側の時計と左側の時計
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「村上春樹・安西水丸 / ランゲルハンス島の午後」

村上春樹の小説は長編も、短編も好きなんだけど、エッセイも大好きだ。
数あるエッセイ集の中でもこの「ランゲルハンス島の午後」が一番好きで、何回も読み返している。
「小確幸」という村上春樹ファンなら有名な言葉もこの本の中に収められている。
前にも書いたことがあるけど、何でもないただの文章をただ読んでいる時間というのが好きだ。
文章が頭の中を通り過ぎるだけで、知識として残るものは少ないかもしれない。ただそうゆう時間が好きなだけかもしれない。
でも自分でも気付かない意識の奥底で、なにか残るものがあると思っている。積み重なる記憶と同じようなもので。

この本のタイトルにもなっている「ランゲルハンス島の午後」という文章が特に好きだ。
村上春樹が中学生の頃、忘れた教科書を自宅に取りに戻り、また学校に向かう時の春爛漫の中、少し寝っ転がって空を眺めた。
ただそれだけの話。本当にただそれだけの2ページの文章。だけど僕はこの文章を読む度に少年時代の記憶が甦る。
僕は多摩川沿いで生まれ育ったので、おそらく原風景といわれるものも多摩川の河川敷だ。
寝転がって空を眺めたり、走ったり、サッカーしたり、バイクの練習したり、女の子と歩いてみたり、少し泣いたりしてみたり。
僕の生活のすぐそばに多摩川があった。この文章を読むとその頃の記憶がなんとなく甦るんだ。

皆が学校にいる時間、自分だけが違う場所にいるという非日常感も、どこか僕の心をくすぐる。
学校教育というある意味暴力的なルールのうえに自分がいて、そこから少しでも外れた時の不安と期待の混ざった感じ。
風邪で休んで家にいる時とか、ひとり保健室で寝てた時とか、学校抜け出して近所の駄菓子屋にいくとか。
今考えるととても小さなことだけど、その時はその非日常感にドキドキしたものだ。
大人になった今その頃の記憶を思い出すと、僕は随分遠くまで来たんだなと思う。日常の部分が大きくなったということ。
歳を取れば取るほど、いろんなことをやればやるほど、知れば知るほど非日常の体験が少なくなる。
先人には、お前みたいな若僧がそうんなこと言うのはまだ早い。と言われそうだけど、だんだんドキドキすることも少なくなる。
それが大人になるということなのかもしれない。でもまだドキドキしたいよね。

今回、思う所があって、この文庫本を絵描きのいでたつひろくんにあげようと思った。特に理由はない。
なんとなく読み終わった後に表紙を眺めていたら、そう思った。そうでなければならないような気がした。
このエッセイの挿絵が安西水丸で、たっちゃんがすごい好きだといってたのを思い出したからというのもある。
どちらにしても自分が好きな本を、人にプレゼントするのはとても好きなことです。おしつけがましいですけど。
そんで昨晩たっちゃんに会ったので本を渡すと、すごい喜んでくれてた。これが仏のような顔か、と思った。笑
使い古しの本で申し訳ないけど、喜んでくれて良かった。展示会お疲れ様、という後付け感満載の言葉と共に。

最近はだんだんと春の気配を感じられます。毎年やってることだけど、春になったら多摩川で寝転がって本を読もうと思う。
少年時代のように春を身近に感じられないかも知れない。世界はあの頃よりも僕の近くにはいないから。
僕が離れていったのか、世界が離れていったのかはわかりません。でもあの頃にくらべて確実に距離は離れている。
それでも今年もゴロゴロしよう。そして少しだけ、あの神秘的なランゲルハンス島のことを考えてみようかなと思っている。

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The End_1123 象スタジオ / PLAUBEL makina 670

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