DATE:2012/10/23(Tue) 14:08 No.1066

「村上春樹 / 羊をめぐる冒険(上)」
「僕と鼠シリーズ」の最終章の上巻。「風の歌を聴け」と「1973年のピンボール」とは違い
あきらかに物語性が増してる。というよりも、いわゆる村上春樹の小説ってこうだよな。という印象。
そうそうこんな感じと思い出しながら読んでるうちに、いつのまにか自分自身も変な世界に入っている。
序章からぐいぐい物語に引き込まれていく。ワクワクして、不思議で、退屈で、興奮する物語。
あらすじを説明するのも難しい小説だけど、物語はある女性の死から始まる。
学生時代に出会った、誰とでも寝る女の子の死。そして妻との離婚。
新しいガール・フレンドは出版社で校正のバイトをしながらコール・ガールでもあった。
そして彼女はそれだけではなく「耳専門」のモデルで、とても美しい耳を持っていた。
とまあ女中心の話からスタートです。でも最初っから「僕」は喪失してた。喪失王。
翻訳の仕事だけではなく、広告業界にまで手を伸ばしていた僕らはそれなりに業績を伸ばしていた。
しかしある日事務所に広告界の有力者であり、右翼の大物である「先生」の部下がやってきて、
広告で使った羊の写真を取り下げろと脅迫してくる。その写真は「鼠」が送ってきたものだった。
やんややんやと話は進み、耳の美しい女と一緒に北海道に羊を探しに行く事になる。
上巻は北海道に向かう為に羽田空港に向かう車中のシーンまで。上巻はどこまでも布石でしかないと思う。
物事の本筋ではないにしても、耳の美しい女の「耳の開放」と「耳の閉鎖」の話とか。
鼠の手紙を届けに「街」へ行き、ジェイや女に会ったりとか。もうストーイーラインは抜群なのです。
これ読んでない人にはまったくちんぷんかんぷんな話なんだろうな。
「耳の閉鎖」?そりゃ分からないよな。ぜひ体得して見せてあげたいくらいだ。
読んだ人にだけ分かる。「耳の開放」のしかたも、ナイーブな肉屋のナイーブなハムも。
そうゆう話したいなあ。パリのトーゴくん。来日してください。
「先生」の部下と羊の写真についての話し合いのシーン。「僕」はだいぶ駆け引きめいたセリフをはく。
その時の「僕」はレイモンド・チャンドラーの小説に出てくるフィリップ・マーロウっぽいんだ。
ロング・グッドバイは村上春樹が訳してるし、なんかイメージがあったのかな?
「僕」はあんなにクルクルパーマでは無いけど、タフさでは負けてないし、羊を探す決意もすごい男らしい。

そのフィリップ・マーロウ役のエリオット・グールド。
こいつ、いつでもどこでもタバコポイ捨てだし、スーツ着て革靴も履いたままベッドで寝るし。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」とか言っちゃうハードボイルド野郎。
松田優作はこの人に影響されたんだか、されてないんだかって話。
、、、現在の僕はもうすでに下巻を読み終えて「ダンス・ダンス・ダンス」に入っている。
下巻のラスト、僕は心をもって行かれた。本当に読む前と読んだ後では、少しだけ違う人になっている。
たぶん「僕」は少しだけ死んだんだ。、、僕はどんどん村上春樹に染められている。
それは10年前の時のように、現実と物語の区別が曖昧になる。僕社会人だからあぶない当時もそうか。

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