DATE:2011/10/29(Sat) 14:04 No.787

「スプートニクの恋人 / 村上春樹」
村上春樹の小説の中で一番苦手。と思いこんでいた。
愛ちゃんは言った「村上春樹は男の為の小説やで~」
この小説は村上春樹の小説で僕が唯一「途中でやめた小説」だ。
そしてこの小説は女性が主体なのだ。少なくとも前半は。
中盤から主体が男性になってくる。そしたらズンズン世界に引き込まれた。
彼の小説は段落が少なくいのが特徴だけど、この小説はもう段落なんて皆無に近い。
しかも文章が暗示めいている。それはもうすごく。ものすごく。
だけど読み疲れなく物語のもっと奥の方に奥の方に入り込んでいく。森のように。
それは深層心理という森。こっち側と向こう側。
あぶないあぶない。また同じ目にあう所だった。
女性が煙のように忽然と消える件は「ねじまき鳥クロニクル」に近いものがある。
思い起こせばあれもとんでもない小説だよな。
僕、影響受けすぎて、事務所の暗室に籠もって完全な暗闇に身を置いた事がある。
さすがにバットは持っていなかったけど。
ねじまき鳥との完全な違いは、主人公(僕)が消えた女性を探すか、探さないか。
この小説は後者。ギリシャまで探しに行くけど、とくに探さない。
向こう側にも行けない。バットを持って井戸の底に入らない。そもそも井戸も無い。
だから彼はこっち側にも居られない。そこで多分死んだんだと思う。
アクロポリスの丘で、全部じゃなく、少しだけ「死んだ」んだと思う。
昔読んでダメだったのに、再読すると自分ランキングの上位に食い込む。
これだから歳をとるのはやめられない。

The End 362_原宿 / Canon P
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